鉄道開業150周年!
鉄ヲタからみる「ekinote」

ekinoteプロジェクトメンバーコラム #001

  自己紹介

  ・氏名: 志村 嶺(しむら りょう)
  ・所属: 三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
  ・代表製品: コードレスクリーナー「iNSTICK ZUBAQ」をデザイン
  ・趣味: 鉄道・サウナ

鉄道150年

10月14日、この日付を見て何か思い浮かぶことはあるでしょうか。
1872年10月14日、新橋~横浜間に日本初の鉄道が開業したことから、平成6年に当時の運輸省によりこの日が「鉄道の日」として制定され、全国各地でイベントが開催される日となっています。
また、今年はその開業から150周年を迎えます。この150年間、鉄道は多くの人を運び多くの人を魅了してきました。 今回私は、その鉄道に人生を捧げた者の一人として、また、プロジェクトチームの一員として、全国約9,100の駅を中心とした街の情報を紹介するプラットフォーム、ekinoteの意義や魅力を考えていきたいと思います。
ちなみに、奇しくもこの文章の締め切りも10月14日です。 果たして私はその記念すべき日を晴れ晴れとした気持ちで迎えているでしょうか・・・

UXデザイナー視点からみるekinote

生まれてからこの方、間断なく鉄道趣味(と少し仕事)に勤しんできた私ですが、撮り鉄※1、模型鉄※2、収集鉄※3、と一通り経験したなかでも最近はもっぱら乗り鉄がライフワークになっています。
とりわけ乗りつぶし、と呼ばれるすべての路線に乗るチャレンジの真っ只中で、現在JR全線と私鉄92%に乗車しました。 全国津々浦々に張り巡らされた鉄道は、その地域の文化や生活を飾らずに見せてくれます。
そんな乗り鉄の経験とUXデザインの視点の双方から鉄道の利用シーンを見てみると、ユーザーと事業者、それぞれの持つ情報と求めている情報のギャップが見えてきます。 2つのタイプの鉄道路線を例に見ていきましょう。

 

グレーはJR線、赤色は乗ったことのある私鉄 鉄道網が日本を形作っていることが分かります

通勤路線でのekinote

阪急電鉄の創始者、小林一三が輸送、小売、沿線開発の三位一体のビジネスモデルを生み出して以来、鉄道各社はブランディングによる沿線価値向上を図ってきました。
今日ではその一環として、京王電鉄「あいぼりー」や京成電鉄「京成らいん」など、多くの鉄道会社では沿線情報誌を発行しています。 しかし、マガジンラックは自社や直通先の駅構内にしか設置されておらず、わざわざWEB版を見に行く、という方も多くないでしょうから、現状沿線外にはリーチできていないと言えます。
そこで、ekinoteでは、全国約9,100駅を網羅することで、沿線のローカルな情報に沿線外の人が簡単にアクセスすることができるようにしました。
また、投稿機能により、おすすめの場所の口コミに基づく情報を、ユーザー自らが発信することができます。 これによって、地域の人の目線で発掘した魅力に対して共感した人が地域外から来てくれる、地域を活性化する循環が生まれることを目指しています。

 

多摩地区のベッドタウンを抱える京王線 学生時代駅員のアルバイトをしていました

ローカル線でのekinote

全国に張り巡らされた鉄道網の中でも、盲腸線と呼ばれる、行き止まりのローカル線は、旅情や歴史を存分に有する路線が多く、マニア心をくすぐる路線です。
そうした路線を旅しているときに苦労するのが食事です。 かつて旅の友だった駅弁や立ち食いそばは近年大きく数を減らしています。 また、車移動が主流の地方のローカル線は、終着駅に降り立っても駅前に営業している店舗が少なかったり、観光案内所すらなかったりすることがよくあります。
さらに、数少ない乗客の殆どを高校生、高齢者、技能実習生などが占めていると、地元の方を捕まえておすすめを聞く、ということもなかなか困難です。 運よく乗客を捕まえて聞いてみても、こんなところ何にもないよ、と言われたり、ガイドブックに載っている道の駅や、バイパス沿いのチェーン店を紹介されたりすることもよくあります。
そんな時にekinoteを使うと、地元の人はよく行くものの来訪者に教えるほどではないと思っているような、味のある食堂や町中華を見つけることができるかもしれません。
ekinoteではこうしたユーザー動向のデータを活用して、自治体や事業者が観光戦略を立案することができます。 旅人にとってうれしいローカルの情報と、地域の人が気づいていない価値のマッチングも、ekinoteの提供する価値の一つとして期待できます。

 

JR東海を代表する盲腸線・名松線 東海道新幹線と真逆のローカル線です

駅起点だからできること

都市部・地方に限らず、小さな駅を旅した際に困ることとして、周遊に便利なバス、レンタサイクルなどの二次交通の情報入手があげられます。
観光地ではよく町巡り用の地図が用意されていますが、現地に行かないと入手が難しかったり、そもそも地域の観光資源としての素質に気付いていない街では何も用意がなかったりという課題があります。
また、バスも事業者ごとに情報がバラバラだったり、見ても分かりづらかったりして、気軽に使える状況とは程遠いと言えます。 Google Mapsは最近バスや自転車も調べられるようになりましたが、目的地が決まっていない、周遊型の滞在だとただの地図になってしまいます。
また、NAVITIMEはバスの時刻情報を全国網羅していますが、バスの路線と時刻を瞬時に把握し理解できる方は多くないのではないかと思います。
だからこそ太川陽介があれだけ面白い旅をできるのですが、それらの情報を駅起点で集約し、施設への移動と体験をセットにして提示できれば、多くの人の行動範囲を大きく広げ、より多くの街が訪問先の選択肢となることができるのではないでしょうか。。

 

地方のバスは初見では使いづらいですが、乗ってみるとまた魅力があります

鉄ヲタ視点からの個人的願望

と、もっともらしいことを書きましたが、このアイデアは鉄ヲタとしての実体験に基づいています。
撮り鉄は駅間の田園地帯や鉄橋などが撮影地であることが多く、鉄道マニアでありながら鉄道を利用する機会が少ないという矛盾を抱えています。
収集鉄では切符を買うためにお昼の列車を降りてしまうと、次は4時間待ちといった場面がたまにあり、待合室で震えたり、10km以上歩いて次の駅に向かったりした記憶が何回もあります。 また、乗り鉄目線だと、終着駅に来た列車の折り返しで始発駅へ戻る、というのはなにか損した気分になります。
そこで、バスやレンタサイクルの情報をekinoteに紐づけることができれば、撮り鉄はレンタサイクルを組み合わせることで鉄道を利用しての撮影旅行が簡単になり、収集鉄は1本見送って街を楽しむことができ、乗り鉄は線路のない方向へのバス路線に乗り継いで楽しく旅を続けられるのではないかなぁ、と目論んでいます。

地域の価値を掘り起こし、未来へつなぐ

21世紀に入り、自然災害、長期的な人口減、そしてコロナ禍と、鉄道の未来には課題が山積しています。
災害レジリエンス、自動運転といったハード的な解決策に多くの事業者が取り組む一方で、大量輸送機関である鉄道には地域の人が鉄道を必要とし続ける環境・意識の醸成もまた求められてきます。
ekinoteを通じて「駅」という生活単位から街を見直すことで、生活者自らが地域の眠れる価値を掘り起こす。 そして、少しでも多くの路線と駅、街が活性化することで、地域の誇りとして、多くの鉄道と地域が支えあう社会を構築することができれば、それもまた一つのスマートシティの姿なのではないかと思います。

 

数年後にはリニアが開業する予定の橋本駅 どんな未来が待っているでしょうか

※1撮り鉄・・・鉄道車両を撮影するマニア、列車全体を写す編成写真のほか、車両1両ずつを記録する形式写真、風景写真などがある。
※2模型鉄・・・鉄道模型の収集や制作を趣味とするマニア、スケールにより、Nゲージ(1/150)、HOゲージ(1/87)などの規格があり、それぞれにおいて車両の収集、加工、ジオラマ製作などに分かれる。
※3収集鉄・・・鉄道の想い出を感じるアイテムを収集するマニア、切符や駅弁の掛紙から廃用車両の部品や交換された駅の看板に至るまで、何を集めるかが人により多岐にわたる。

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